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医療材料使い捨ての無駄を考える

東京女子医科大学医学部
医療・病院管理学 上塚芳郎


 医療材料の中には、当然単回使用(single use device:SUD)で廃棄しなければならない材料も存在するが、製品の質の向上により再滅菌すれば複数回使用できるものも多く存在する。我が国では、感染のリスクから多くの医療材料の添付文書に単回使用廃棄(ディスポ)と書かれている製品が多いが、意外なことに米国では、SUDを消毒、性能の確認、再滅菌、パッケージングして販売しているのである。そしてそれは合法なのだ。
 地球上がごみであふれる時代、資源の有効利用そして医療費の削減に、再滅菌(再製造)医療材料について解説する。

  1. 材料費の問題から
     医療材料費は、医薬品費と並んで病院の購買費用に占める割合が大きい。医療技術の進歩により、鏡視下(腹腔鏡など)の手術が増加し、それらの手術ではSUDが多く使用される。そのため非常にコストがかかる。  
     医療材料の償還方式については表1を参照されたい。
     医療材料には、それ自体には償還価格がつけられておらず手術や処置などの医療技術にその価格が包含されているような材料が多い。これらには消耗品であるシリンジ(注射器)、三方活栓、点滴チューブ、針糸などがある。表1のA1に属するものである。これらの医療材料は安価であるが、使用されるボリュームが大変多いのが特徴である。
     一方、保険償還価格が公定価格とされている一群の医療材料があり、心臓ペースメーカや冠動脈ステントあるいは人工関節などの治療用医療材料でこれらは、特定保険医療材料と呼ばれる。表1のBに属するものである。
     大学病院や大規模な総合病院では、医療材料購入費の過半は、このような特定保険医療材料である。特定保険医療材料はほとんどが外国製であり、長年、内外価格差問題が取りざたされてきた。内外価格差については、機能区分別収載や外国平均価格の導入などで過去に比べればかなり改善しているが、まだ厳然と存在している1)
     国により医療材料の償還制度は異なっている。米国では、我が国のように特定保険医療材料が公定価格となっておらず、包括医療の中に材料費が包含されている。したがって当然医療機関は製造元と交渉してできるだけ安い価格で購入しようとする。そこに、業としてSUDを再滅菌してパッケージングして販売するという業が成り立つのである。

    A1(包括) いずれかの診療報酬項目において包括的に評価されているもの
    (例:縫合糸、ガーゼ)
    A2(特定包括) 特定の診療報酬項目において包括的に評価されているもの(例:眼内レンズ)
    B(個別評価)
    =特定保険医療材料
    材料価格が個別に設定され評価されているもの
    (例:ペースメーカー、人工関節)
    C1(新機能) 新たな機能区分が必要で、技術はすでに評価されているもの
    C2(新機能・新技術) 新たな機能区分が必要で、技術が評価されていないもの
    F 保険適用になじまないもの
  2. 医療材料の再滅菌
     医療材料の中には、昔から自院の中央滅菌室で滅菌消毒して、再使用している器具がある。手術のときなどに用いられる鋼製小物である。この範疇に入る医療材料には、ピンセット、ハサミ(剪刀)、鉗子などがある。鋼製小物は、病院内の中央滅菌室で洗浄・消毒・組立・滅菌という工程を経て手術や処置用に供給される。
     これらの鋼製小物は、体の中に植込まれるような医療材料ではないが、手術の際に、患者の体内に触れる点から感染などが起こらないように適切に滅菌されている。消化器内視鏡なども再使用されており、適切な滅菌プロセスを経ていれば再使用して何ら問題がないとされている。もし、消化器内視鏡を単回使用にすれば、なるほど感染のリスクはなくなるが、ひどく不経済なことである。
  3. 米国でSUDが再製造医療材料として市民権を得た道のり(図1)
     米国でも1990年代までは、SUDの院内滅菌による再利用が行われていた。しかし、院内滅菌は滅菌方法の適正性や感染のリスクがあるということで、徐々にその数を減らして行き、2000年以降は、SUDを再滅菌・再使用を手掛ける株式会社が台頭してきた。
     SUDを滅菌・消毒・パッケージングして再使用可能な状態にするプロセスを再製造と呼ぶこともある(remanufacturing)。
     米国の医薬食品局(FDA)の510(K)プロセスをSUDの再滅菌・再使用に当てはめることにより、再製造されたSUDは新品と同等の性能であるとい考えられている。これには、米国議会、政府監査院(Government Accountability Office: GAO)などの働きかけがあった。院内滅菌による医療材料の再使用の感染リスクにGAOが危機感をいだいたのである。
     医療材料の再製造に会社が参入してくるにあたって、法律が整備された。すなわち2002年に医療機器ユーザーフィー・近代化法(Medical Device User Fee and Modernization Act: MDUFMA)により、再製造業者は費用を支払い510(K)のバリデーションをとることが義務づけられた2)。このような製造過程の厳格化の結果、GAOは2008年1月の報告で、「再製造医療材料はメーカーが製造した新品の医療材料と比較して健康リスクを増大させない」と議会に報告している3)
     再製造業者は510(K)承認を取得しなければならないし、再製造業者は新品先発品と同じ規制に加えて表4に示すことがらに準拠しなければならない。
     FDAからも、再製造医療機器に関して業界と審査官向けの最新のガイダンスが出ている4)
     日本には存在しないが、米国にはSUDの再製造会社がいくつか存在する。現在はストライカー社、ジョンソン&ジョンソン社など大手医療器材料メーカーもこの分野に参入している。
     経済面だけではなく、資源の有効活用。地球環境を守るという見地からも、医療材料の再使用は多大なメリットがある。

  4. 我が国に再製造材料を導入する上で解決すべき課題
     我が国の材料費償還制度では、特定保険医療材料には薬価がついており公定価格である。このような償還制度のもとでは、再製造品の材料価格をどのように決めるのかが問題となってくる。それは、あたかも先発医薬品、ジェネリック医薬品の薬価差と似ている。米国ではどうかというと、DRG-PPSのホスピタルフィーの中に材料費が包含されているのである。したがって病院としては医療材料を安く買えば買うほどメリットが出るわけで必然的に再製造品を使うインセンティブがある。
     あるいは、我が国でも、材料費が特定の診療報酬項目において包括的に評価されている(白内障の眼内レンズ)方式になることが必要と考える(表1のA2)。
     このように材料費償還の方式が米国式にならないと、我が国での再製造品の普及は難しいのではないだろうか。

<参考文献>